第三章

10.パイプ喫煙のチュートリアル


コーンパイプと言えば、大量生産の工業製品と言うのが一般的な評価だと思う。
発祥の地はアメリカであり、その喫煙方法はストレート・バーレーのタバコを適当に詰め込み、口一杯に頬張った煙を飲み込んで、ブハーと吐き出す(肺喫煙)、そんなイメージがピッタリなパイプではある。
確かに、ポパイは蒸気機関車の様に煙を吹き出すから絵になるのであって、ヴァージニアや黒タバコ(ブラック・ヴァージニア)を、味わう様にチマチマ煙にするようでは、シャーロック・ホームズになってしまう。

そんなコーンパイプではあるが、その作りや性質故に、パイプ喫煙技術を磨く為のチュートリアルになると考えたので、その理由を順を追って紹介して行こう。
もちろん、チュートリアルと言っても「お笑い芸人」の事ではない。


(工業製品)
コーンパイプはまごう事無き工業製品である。
コーンと言うくらいなので、トウモロコシの軸を圧縮し、それにカエデなどの木製シャンク(煙道部)をぶっ刺しただけの作りで、タバコを詰めるチャンバーの底など、お世辞にもブライヤーパイプと比べられるとは言えない。
しかし、悪い事ばかりではない。
工業製品である事を逆手にとる事で、反面教師的な意味で、パイプ喫煙技術を収得する為の良いチュートリアルとなる。
その中で、最も注目すべき点は「チャンバー形状」である。

喫煙の中でも文化度の最も高いと考えるパイプ喫煙だが、喫煙道具のパイプには多種多様なクラシック・シェイプがあるが、これはただ見た目が違うと言うだけではない。
多種多様なシルエットのパイプだが、実を言うと「様々な種類と味わいを持つパイプタバコ」に合わせて作られていると考えている。
まずはチャンバー、ここはタバコを詰める場所であり、喫煙に最も影響を与える所と思われるが、標準的なビリヤード型のものから始まり、テーパーの強いダブリン型、スクワッドブルやローデシアンに見られる浅いお椀型、チャーチワーデンやチムニーなどの細長い型などがあるが、それぞれのチャンバー形状に対し、適したタバコも違って来ると考えている。
それに加え、マウスピースの形状の違いに、様々なパイプの素材も加わる。
ブライヤー、コーン、メヤシャウム(海泡石)、クレイ(陶器)、メープル(カエデ)などなど。
また、同じブライヤーでも重い感じのもの、サンドブラスト加工されたもの、オイルキュアリングされたものなどだ。
様々な素材や形状のパイプがあるが、厳密に言えば、それぞれでタバコの味わいは微妙に変化する。

喫煙道具であるパイプ一つ取ってもこれほど多様性がある。
そこに、様々な特徴を持ったパイプタバコが何十種類とあり、海外輸入も視野に入れれば、タバコ銘柄は三桁に上る。
パイプタバコを始めてみようと思ったとしても、タバコだけでも暗中模索、五里霧中である。
そこに様々なパイプと来たら、右も左も分からない初心者は、お手上げ状態にならざるを得ない。
そこでコーンパイプの登場だ。
材質はトウモロコシのみ、チャンバーは「上の直径20mm前後、下は16mm」、テーパーの角度も作りもほぼ一緒。
あえて違いを上げればチャンバーの深さのみ。
この、コーンパイプが工業製品である事を逆手に取り、「喫煙具であるパイプの条件を揃える」事でパイプによる違いを無くし、まずはパイプタバコを楽しむ技術を身につける事に重点を置く、これこそがパイプ喫煙を知るための早道ではないか。
以上が、コーンパイプをパイプ喫煙のチュートリアルに使用する最初の理由だ。
最初に喫煙技術が何たるかを身に付けさえすれば、後はパイプやタバコの知識を積み上げて行くだけで良い。
結果、経験を積む毎にパイプ喫煙は、より深く広い楽しみを提供してくれる事だろう。


(エコロジー)
パイプの代名詞ともいえるブライヤー、デザイン性・機能性共に他のパイプの追随を許さないものとなっている。
また、パイプ喫煙にとっての命とも言える「美味しくタバコを楽しむ事ができる」、これについてもブライヤーは非常に優れた素材だと考えられている。
しかしその原料であるブライヤー(ブリューエル)は、ホワイト・ヒースの根瘤であり、それなりに希少性と価格は高い。
また、大きな根瘤を形成するまでには、長い年月が必要だとされている。
そんな事情が重なり、世界的にパイプ喫煙ブームが起きた時代、「このまま行けばブライヤーは掘り尽くされて、無くなってしまうのではないか。」と危惧された事もあった。
もっとも、そんな事態になる事はなかったのだが、しかし資源はあくまでも有限である。
そこで登場するのがコーンパイプだ。
もともと捨てる他には使い道が無く、焼却処分するにしても燃えにくい素材であるばかりか、毎年山のように発生する。
この邪魔者でしかないトウモロコシの軸を、再利用したのがコーンパイプだ。
パイプの素材をエコロジーの視点から比較すると、圧倒的にコーンパイプに軍配は上がる。
また、価格も極めて安価であり、チャンバーを焦がしたり、マウスピースを噛み破ったり、シャンクを折ったりしても大丈夫。
所詮は使い捨ても侍さない、リサイクル品である。
しかもこのトウモロコシ、最近では燃料やらプラスチックスのバイオ材料でも注目されている。
お試し御免の入門用パイプにとって一石二鳥、いやエコロジーを考えると、三度お得といっても過言ではないパイプである。


(ジュース問題) 
実は喫煙と言うもの、タバコの香りや味わいを火によって気化する事で、煙という形で楽しむことが出来る嗜好品である。
しかしその代償として喫煙(特にパイプ喫煙)は、発生した水蒸気によるジュースに悩まされる事になる。
これは、喫煙が香りと味わいを気化(沸騰)させるものである以上、必ずついて回る問題である。
さらにパイプ喫煙にとって重要なものに、「くわえる為専用」に作られたマウスピースと、火種を長時間(1~2時間)維持する為の技術「吹き戻し」があるが、このマウスピースと吹き戻しがジュースの発生を助長し、喫煙を難しくしている。
このジュース問題、パイプ喫煙においてはかなり深刻な扱いとなっている。
しかーし、コーンパイプはその構造上ジュースの吸収性能は非常に高い。
ジュースの事を考えなくとも楽しめるコーンパイプは、それだけでアドバンテージがあると考えて良い。


喫煙難易度の高さ)
エコロジーではあるが工業製品であるコーンパイプ、消耗品としての仕様となっている。
その為か、喫煙技術的には難易度が高い。
喫煙技術の難易度が高いヴァージニアブレンド(タバコの旨味や香りを引き出しにくい)だが、パイプ喫煙の知識と技術がある者であれば、たとえコーンパイプであっても十分に楽しめる。
しかし、知識も技術も無く適当に吸うと、どうしてもコーンパイプの欠点が出てしまうのだが、それだけに反面教師として、喫煙技術を見極める為には良い指標となってくれると考える。
従って、工業製品で粗悪品と言われるコーンパイプで、パイプタバコの王道と言えるヴァージニアブレンドを楽しむ事ができたなら、喫煙技術の学びは卒業と言う事になる。
後は、コーンパイプのままパイプタバコの探求に乗り出しても良い。
またお気に入りのタバコが見つかっている場合は、より美味しく楽しめるパイプ選びに移行する事も可能である。
ともかく、喫煙技術と言う指標が身につけば、更なる旅路に踏み出せる事は保証しよう。
以上、簡単ではあるがコーンパイプをパイプ喫煙のチュートリアルにする理由を列挙した。

なお、ここでリビングショップ安藤さんから質問が来た。
「9.パイプ喫煙は引き算」で取り上げたアンフォラ・フルアロマ、パイプを焦がしやすいタバコだとの事。
そこで、コーンパイプ探検記のプロトタイプ的な位置づけで、「閑話 パイプに穴が・・・・・・
」を、パイプ物語2に追加しよう。
ただし、それ以降の話題は『コーンパイプ探検記』で、乞うご期待である。


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