第三章

9.パイプ喫煙は引き算


ここでは、タバコの味わいについてを、パイプ視点から見て行こうと思う。
タバコの味わいについては「パイプ物語」でも取り上げているので、まずはそのおさらいから。


「パイプ物語」では最初に、タバコの味わいの構成要素を大きく三つに分ける所から始まる。
 最初は一番肝心な「タバコその物の味わい」、次にパイプタバコには必ずと言って良い程ついて回る「香料の味わい」、最後はあまり話題に上りにくいかもしれないが「物理的な味わい」である。
(物理的な味わいとは、煙の口当たりや喉ごしの事を指す。)


次に「パイプ物語」では、これらのタバコの味わいを、「味わいの保存の特性」と言う基準で整理している。
簡単に説明しなおすと、壊れ難い味わいが香料、特にトップフレーバリングは壊れ難いとしている。
次に壊れ難いのがタバコ葉を加工する時に添加する香料であり、肝心要の「タバコ本来の味わい」は繊細で壊れやすいと書いた。
これをパイプ喫煙視点で言い直すと、「トップフレーバリング等の香料は、適当に吸っても味わう事はできるが、ヴァージニタバコそのものの繊細な味わいは、喫煙技術に左右される。」こんな言い回しになる。

前置きが長くなったが、「パイプ物語2」では、タバコの味わいを「引き算」を起点にし見て行こうと思う。
もっとも、以下は私の机上の空論的考察が含まれているので、やや眉に唾して読み進めてほしい。

早速だが、私の妄想的主張は次の通り。

「タバコの味わいは原則、引き算であり、この引き算を念頭に入れた上で、パイプタバコの味わい方を決定すべき。」

まあ、紙面の関係で小難しい事は置いといて、ケーススタディーを上げて置こう。
まずは、これを書くきっかけとなった入門用タバコから。
銘柄は「アンフォラ・フルアロマティック」。
クリーミーかつフルーティーで、クールスモーキングが楽しめるとのうたい文句で知られるタバコで、入門用タバコとして一番に名前が上がる一品だ。
そんなタバコではあるが、実は個人的に少々苦手にしていたタバコでもある。
理由はアンフォラ・フルアロマティックに使われている独特の香料による。
その香料だが、漢方系ハーブを連想させる甘い香りだ。
これだけでは分かり難いと言う人の為に、もう少し香りに踏み込んで検証してみよう。
アンフォラ・フルアロマティックで私が苦手としている香りは何か。
一番近いと思われるのがリコリスである。
(パウチの表記は フルーツ・ブロッサムとなっているが詳細は不明。)
「リコリス」、スペイン甘草(カンゾウ)を使った、北欧の伝統的なお菓子ではあるが、まずいと揶揄される事も多い。
この香りは、ラズベリーやココナツミルクと並んで、一昔まえの日本人には違和感のあるものだと思う。
わたしも例外に漏れず、この香りに違和感をもっていた。
しかしある時、アンフォラ・フルアロマティックを、とあるパイプで吸ってみたら、その味わいは一変した。
そのパイプがチャーチワーデン。
チャンバーが細長く、マウスピースはロングベント。
火の回りが良く喫煙は楽だが、タンピングはし辛く、喫煙終盤はジュースが喫煙を妨げる。
何より細長いチャンバーと長いマウスピースが、ヴァージニアタバコの繊細な味わいを邪魔する為、あまり印象が良くないパイプである。


事の起こりはテイスティング時だった。
試喫であるため、最初は基本に忠実と言う事で、アンフォラ・フルアロマティックを、ヴァージニア向けのミディアムサイズのパイプで吸った。
ただし、タバコをパイプに詰める時に、タバコの刻みの細さが妙に気にはなった。
肝心のタバコの味わいだが、やはりリコリス風の香りが立ち、「この香りは鼻に付く」と少々引いていた。
喫煙した結果は、タバコ本来の味などが楽しめたが、パイプと刻みが合っていないと感じた。
そこで、タバコを詰めた時に感じた刻みの細さに合わせる為、二回目はチャーチワーデンでテイスティングをする事となったのだが、一服入れて驚いた。
あの漢方系ハーブの香りを、ほとんど感じなくなっていた事だ。
もちろん、タバコの複雑な味わいも感じる事はなかったが、その代わりクリーミー且つフルーティーな甘さを持つ煙を楽しむ事が出来た。
たぶん、刻みに合わせたチャーチワーデンパイプが、タバコの味わいを一塊にした事により、ブレンダーが狙った味わいが再現された事が原因だと思われる。
そこで一つの結論、パイプタバコの楽しみ方だが、タバコが持つキャパシティーを限界まで味わうだけが、正しい訳では無いと言う事だ。


ここで、葉巻に話を移すが、パイプ物語でトルセドル(葉巻職人)を取り上げた。
このトルセドルは、プレミアムシガーを手巻きする職人である。
決められたレシビ通りに葉巻葉を重ね、さらにレシピ通りのビトラ(長さ・太さ・形状)に巻き上げる。
すなわち、ブレンダーの狙い通りの味わいになるよう、葉巻を仕上げる専門の職人である。
その結果、「プレミアムシガーの味わい方は、如何にブレンダーが引いた路線に沿って味わうか。」と言われている。

しかし、パイプ喫煙はパイプタバコ自体が半製品である為、このトルセドルが行う作業を、スモーカー自身が行わなければならない。
パイプタバコの選択と、それに合わせたパイプ選び、さらにはタバコに合わせた喫煙技術、これらを自らが選択し実行する事になる。
はなはだ面倒くさく、やっかいな趣味であるが、この複雑怪奇なタバコの制作過程(パイプにタバコを詰める作業)、指標となるものがあった方が、より楽しみやすいと思う。

さて本番である、この時に必要になる法則が、「パイプ喫煙は引き算」だ。
どのみち、タバコに存在しない味わいまでをも、引き出す事ができないのが現実である。
従って、タバコに含まれる味わいをキャパシティー限界まで引き出す事を原点とし、その上でタバコの味わいを予測する事になるのだが、タバコに含まれる旨味や香りは、喫煙具により様々な制約を受ける事となる。
すなわち、味わいの引き算が行われる訳だ。
これを理解した上で、どの様に活用して行くかが、スモーカーの腕の見せ所となる。

ただし、ここで例外がある。
それが、ブレンダーの狙いだ。
アンフォラ・フルアロマティクやラットレイのブラックマロリー、たぶんダンヒルの965もそうなのだろうが、これらのタバコはブレンドを一塊にする事により、特有なキャラクターの味わいを出現させる。
まあ、その他のタバコにも多かれ少なかれ言える事ではあるが、「味わいの変化を楽しむとか、ブレンドされたタバコ葉を個別に意識して楽しむ」などを、しない方が良いタバコも実際には存在する。
難しい事を考えずタバコを一塊で楽しみ、「うんっ旨い!」ですませるべきタバコは、ブレンダーの狙いに従う喫煙を試みるのが吉である。

ただし、ブレンダーの狙いと言っても中々一筋縄では行かないのが現実。
特にイングリッシュミクスチャー、俗に言うラタキアタバコであるが、これが中々難しい(面白い)。
私の勝手なカテゴライズによれば、ラタキアブレンドは大まかに次の分類となる。
同じラタキアブレンドとは言え、楽しみ方が変われば適したパイプも異なって来る、この辺りを勘案してラタキアタバコを楽しむのも一興である。

バルカン系 : ヴァージニアを楽しむ為のラタキアブレンド
イングリッシュ系 : ラタキアを楽しむ為のブレンド
スコティッシュ系 : オリエントを楽しむ為のブレンド

最後に、星の数ほどあるパイプタバコであるが、これをメーカー毎に把握するのも面白い。
JT、マックバレン、ボルクムリーフ、これらの銘柄の後ろにそれぞれのブレンダーが存在する。
好き嫌いをせず、メーカーの全アイテムをテイスティングする事により、おぼろげながらではあるが、「そのメーカーのブレンダーの傾向や好み」が見えてくる事もある。
そこまで行けば、パイプタバコの楽しみ方も、もう一段階深い所に到達する。
まあ多分に眉唾な話ではあるが、こんな所もパイプタバコの奥深いところではある。


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