第二章

4.タバコの栄枯盛衰


さてタバコの栄枯盛衰を理解する上で、外すことの出来ない事から書いて行こう。
タバコ離れの時代「平成」、現在の極端で世界的な嫌煙風潮をもたらせた原因に「喫煙者優遇社会」を定義したが、その原因を作ったのがシガレット、いわゆる紙巻きタバコの出現である。


通説によるとシガレットが誕生したのは、近代史上希にみる大規模な戦闘と言われている、クリミア戦争の時代となっている。
クリミア戦争、ロシアがオスマン帝国に南下する事から端を発し、ドナウ川周辺・クリミア半島を中心に拡大した戦争である。
ドナウ川はドイツの黒い森と呼ばれるシュバルツシルトを源流とし、黒海にまで到るヨーローッパ第2の長さを誇る河川である、戦闘がかなりの広範囲に渡って行われた事が忍ばれる。
その規模は参加した将兵の数180万人、戦闘の範囲はイギリスとフランスの連合艦隊が、極東ロシアのカムチャッカ半島攻略を目論んだと言われている事から、世界大戦の先駆けとも呼べるものだった事が伺える。
戦争に参加したのは、フランス帝国・オスマン帝国・イギリス・サルデーニャ王国・ロシア帝国。
年代は1853年から1856年、折しも18世紀の中頃から始まった産業革命により、ヨーロッパを中心に各国が力を増大させた時代である。
これらの歴史から推測すると、クリミア戦争は世界規模で戦乱が起こった「戦争の時代」の、幕開けだったと思われる。

産業革命にヨーローッパに広がる戦火、ゆっくりと時間を掛けて喫煙を楽しむ事もままならない時代の到来である。
こんな物騒で、せせこましい時代だ、それまで長い時間を掛けて育まれて来た、喫煙の文化も変貌する事となった。
そこで登場したのがシガレット(紙巻きタバコ)。
吸うための儀式を必要とせず楽しめる喫煙だ。
しかもまとまった時間やら、それ相応のシチュエーションやらが必要なシガー(葉巻)やパイプとは違い、シガレットは極短い時間で手軽に、それこそ火さえあれば何処でも楽しむ事ができる。
しかも葉巻やパイプに比べ、見た目がエレガントだ。
まさに忙しい現代に相応しい喫煙の形として、シガレットが歴史の舞台に登場したのだった。

ただし欠点もあった。
それが喫煙時間と葉タバコの量だ。
葉巻であればコストパフォーマンスの良いコロナやパナテラで6~8g、喫煙の所要時間は40分から1時間程度。
パイプであればコンテストを例に上げると、葉タバコのみの重量で3g、所要時間は1時間~1時間半程度、もっともロングバーニング・コンテストの優勝者ともなれば2時間越えもざらである。
それに比べるとシガレット、通常サイズのもので1本0.6~0.8g、喫煙時間は3分~5分と言ったところだろう。
以上のように、タバコの量と喫煙時間の影響で、喫煙のあり方に大きな違いが生まれる事となる。
それが肺喫煙、いわゆる「ふかす」ではなく「煙草を飲む」と言う行為だ。
実はシガレットが登場する以前の喫煙は、ふかすのが主流であり、飲む(肺喫煙)は特殊なものだった。
その証拠と言ってはなんだが、十六世紀末のロンドンで「第八番目の芸術」と称されたパイプ喫煙、そのテクニック(当時スライトと呼ばれたスモーキング・トリック)の一つに「ガルブ(煙ごくり飲み込みの術)」があったそうだ。

(注) 「ガルブ」が、肺喫煙を指すのか、煙の嚥下(食道を通し胃袋に飲み込む事)を表すのかは検証していない。

これを読んだ当時「たかが肺喫煙、これのどこが喫煙技術なのだろうか」と違和感を感じた。
しかしこの違和感は、昭和の時代だから感じるものであり、肺喫煙が一般化している現代だからこそのものだった。
クリミア戦争以前のヨーロッパにおいては、葉巻やパイプが一般的だった為、喫煙はゆっくりと煙草をふかし(香りを楽しみ口腔で味わう事)、それなりの時間を掛けて楽しむものだった。

(注)もっともこの喫煙はあくまでも煙を伴うもののみであり、スナッフ(嗅ぎタバコ)やチューイングタバコ(噛みタバコ)は対象としない。

しかし、産業革命や戦争などにより時代が騒がしくなると共に、短時間で手っ取り早く喫煙できるシガレットが登場する事になる。
ただし、前述の通りシガレットは時間・量ともにふかすだけの喫煙では満足しにくいものであり、手っ取り早くニコチンを摂取できる喫煙法として肺喫煙が一般的なものとなって行った。
手軽に扱え、仕事や作業中などの一服に役立ち、大量に消費可能なタバコ「シガレット」。
さらに、その構造故に大量生産が可能であり、まさに時代と商品と人が見事に合わさる事で、異常とも言える喫煙者優遇社会は形成されて行った。
結果、「喫煙がより一般化した時代」ともなった。
ただしその裏で、手間も時間も掛かるシガーやパイプによる喫煙は減少して行く事となったようだ。

紙面が詰まって来たので結論を急ぐが、以上の様に近代から現代に掛けての、喫煙の栄枯盛衰を振り返ってみると、喫煙そのものがシガレットに躍らされてきた感がある。
さらに、シガレットは戦争の副産物であり、シガーやパイプに比べ文化度も低いので、この様な事態はあまり好ましくないとも捕らえられる。
しかし、視点を変えて考えてみると、シガレットの登場により、それまでの喫煙のように、時間を掛けてユックリ楽しむスタイルだけではなく、仕事や運転の区切り、すなわち一服(小休止としての喫煙)と言う、新しいスタイルを生んだ事も確かで、「喫煙と言うものが大きく変貌した時代」と言っても過言ではない。
ただし、喫煙率が成人男性の82%を越える「喫煙者優遇社会」は、「戦争の時代・経済の時代」と言う特殊な時代に生まれ、マス・マーケティングと言う特殊な社会現象に踊らされる事により、お祭り騒ぎになっただけの話である、
従って、長い目でみればこんな時代は一時期だけのものにしか過ぎない。
今我々が生活しているのは、1995年から始まった「外交の時代」にあたる。
私の予測している次の時代「2040年代の世界」は、仕事と生活と遊び(文化)のバランスがとれた、新しい秩序の世界となる予定だ。
近い将来、喫煙はもっと洗練された嗜好品として、葉巻・パイプ・シガレットと、上手く棲み分けて行く事となり、パイプ喫煙も復興して行く事だろうと考える。


次号へ
一つ前に戻る
目次へ戻る

トップページへ戻ります 1つ前にページへ戻ります メニューページへ

未成年者の喫煙は禁じられています。
あなたの健康を損なうおそれがありますので、吸い過ぎに注意しましょう。
喫煙マナーを守りましょう。タバコのフィルターは自然界では分解しません。

ホームページ上の全てのファイルは、リビングショップ安藤(有)に帰属します。無断で、使用する事を禁じます。
L.S.A(リビングショップ安藤)ホームページ
Copyright (C) LivingShopAndo All Rights Reserved