第二章

2.肩身の狭い喫煙者


世界に蔓延する禁煙ブーム、それに対抗すべく大きな歴史の流れを紹介したが、『パイプ物語2』の主題である「喫煙と文化」に迫る為に、第二章はタバコの栄枯盛衰に言及する事で、今一度タバコの歴史を見つめ直して行こうと思う。

「肩身の狭い喫煙者」喫煙者であれば誰もが一度は感じた事があると思う。
しかし、その感想は本当に正しいのだろうか。
確かに一昔前に比べれば喫煙者が減ってきた事も、喫煙者の肩身が狭くなった事も確かではあるが、大きな歴史の流れからみれば必ずしもそうとは言えないのではないか。
そんな訳でここでまず取り上げたいのは、「喫煙者優遇社会」である。


喫煙者優遇社会、これは昔の社会が「喫煙に対し異常に優遇されていたのではないか」と言う、現代の禁煙運動に対するアンチテーゼである。
私がまだ子供だった時代、煙がモウモウと煙る部屋でマージャンに興ずる大人たち。
テレビのブラウン管には、タバコをくわえ一端の大人を演じる俳優。
町の至る所に設置された灰皿に、国鉄(現在のJR)の車両では当たり前の様に喫煙する乗客。(当時の電車には、座席の肘掛けに灰皿が設置されていた)
職場と言えばデスクにコーヒーカップと灰皿はワンセットであり、会議の時は長机に灰皿は必需品だった。
今となっては信じられない光景ではあるが、至って当たり前だった時代もあったのだ。
ちなみに、仕事場で最後まで灰皿が置かれていたのは応接室だったと記憶している。
またこの頃の喫煙者はマナーも悪く、山の様になった吸い殻、歩きタバコに吸い殻のポイ捨て、タバコの火で服を焦がしたり、人混みで煙をまき散らす。
当時はこう言った行いが市民権を得ていた事も確かである。
しかし私はこう言った社会を生み出した背景には、三つの要素が絡んでいると考える。
それではタバコにまつわる三つの要素を、順次説明して行く事で喫煙者優遇社会を検証しよう。

最初に紹介したいのが、「喫煙の特異性」である。
これはタバコの最大の効能になるが、「チョット一服」すなわち仕事のキリなど、一息いれるのにちょうど良い嗜好品がタバコである。
現在、タバコと共に悪者の仲間入りをしている嗜好品にお酒があるが、酒の場合であれば仕事にキリを付ける為、「チョット一杯」と言う訳にはいかない。
あまりやり過ぎると「気が付きゃホームのベンチでゴロ寝」、みたいな事にもなりかねない。
もっとも、今の若いのがクレージー・キャッツや植木均を知っているかと言えば、微妙なところではあるが。
冗談はさておき、この「一息入れる」、別にタバコに限ったものでもない。
例えて言えば、お茶を飲んだり駄菓子をつまんだり、コーヒーブレイクしたり。
これが大阪のオバちゃんになると、飴ちゃんを舐めるも含まれるが、どれも軽い飲食を伴うものとなる。
ただしこの一服、あまり捕りすぎると糖尿などの生活習慣病と結びつきかねない。
とは言え、体に良くないからと一服を我慢しすぎるのも、仕事のストレスになりかねがい。
ところが、これがタバコになると「飲むのは煙」である。
同じ飲むでも喫煙は煙であり、タバコを飲み過ぎて糖尿になったなどと言う話はトンと聞かない。
そう考えると同じ一服とは言え、タバコは喫茶などの飲食を伴うものとは、一線を画している嗜好品と言える。
また当時は、お茶やコーヒー駄菓子などは、湯飲みやカップ、菓子器や皿がなければ出来ないものだった為、一服する場所は室内に限られていた。(今はペットボトルに缶コーヒーなど、室外や歩きながらでも楽しめるが)
それに比べてシガレット、場所を選ばずどこでも楽しめる、貴重な嗜好品だったと考えられる。
まさに喫煙、タバコならではの特異性である。

さて、紙面が詰まって来たので残りの二つは概略だけで済ませるが、これら二つの要素は、時代背景に起因するものとなる。
その背景とは「1.パイプとコロナ」で言及した「戦争の時代と経済の時代」だ。
戦争の時代に関係するのが「シガレットの誕生」、これは「タバコの栄枯盛衰」の項で詳しく書いて行こう。
次に経済の時代に関係するのが「マスマーケティング」となるが、詳細は「仕事と喫煙」のところで触れて行く予定であるが、これらの時代背景を検証する前に、その証拠となる実際の数字を列挙してお仕舞いとして行こう。

これから簡単に、肩身の狭い喫煙者のアンチテーゼ「喫煙者優遇社会」、これを数字で確認する。
冒頭で一昔前の日本では、猫も杓子もタバコを吸っていた様子を紹介した。
不名誉な事に一時期、喫煙が不良少年の代名詞にされた事もあった。
では実際、この時代の喫煙率がどの程度だったのか、次に列挙してみよう。
サンプルはネット調べた限りではあるが、最も喫煙率の高かった時代1965年とする。

1965年 男性(成人)の喫煙率 82.3%

40代 86.7%
30代 84.7%

話は変わるが、最近しきりに話題に上る年金、支給される年齢が上がる一方であるのは気になるところである。
これは平均寿命が上がる事に伴う、定年の延長が原因であるが、ちなみに1965年の一般的な定年は55歳だった。
高度成長経済まっただ中であったこの時代、会社や企業、経済を支えていたのがどの世代だったのか、おおよその見当が付くと言うものだ。
では早速、次の「3.喫煙と仕事」で話を広げて行こうと思う。


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