第一章
3.パイプと文化
 

パイプ喫煙と文化。
いささか高尚な話しに入る前に、まずはパイプ喫煙入門の話題から入ろう。
パイプ関連やパイプ入門の本には、絶対に欠かすことできない話題がある。
それが「パイプ喫煙を始める時に、気を付けなければならない幾つかの事柄」である。
もっとも、注意しなければいけないとは言え「突然死症候群の危険」やら、「妊娠中の胎児への影響」やらと言う、どこぞの嫌煙家のクレームの事ではない。
注意点とは、あくまでも「パイプ喫煙をスムーズに始めるためにはどうしたら良いか」と言う、いわゆるパイプ喫煙のハウ・ツーである。
では何故パイプ関係の書籍には、殊更に始める時の注意事項があるのか。
その理由は「パイプタバコが半製品」だからである。


最も手軽に楽しめるタバコ、いわゆる「シガレット(紙巻き)」であれば、それこそ火を付けるだけで楽しめる。
若干作法が必要な葉巻であっても、火を付ければ葉巻職人の意図した味わいを楽しむ事ができるし、ドライシガーであればシガレットと大差は無い。
しかしパイプだけは、そうは問屋が卸さない。
まず最初に、状態の良いパイプを用意しなければ始まらない。
次に、喫煙に必要な小道具「コンパニオン」を準備し、パイプ初心者にも扱い易く楽しめるタバコ、例を挙げれば、燃焼が良く味わいがハッキリしたタバコを準備する。
ここまで来てもまだパイプ喫煙は出来ない。
製造業的な表現をすると、仕掛品(しかかりひん)の状態になったに過ぎないからだ。
ここからがパイプ喫煙の本番となる訳だが、これ以上書くとパイプ入門書になってしまうので、話を先にすすめよう。
ちなみにパイプ喫煙未経験の方は「パイプ物語」の「第三部 パイプを上手く吸いたい人へ」を参考にしてください。


ここまで説明しただけである程度実感してもらえると思うが、数ある喫煙の中で、喫煙者に最も高い技術と知識を求めるのが「パイプ喫煙」である。
ただしこの様に難易度が高いパイプ喫煙、そのハードルの高さ故に、その文化度の高さも最高峰であると言って良い。
さてそろそろ、本題の「パイプ喫煙と文化」に行きたいところであるがその前に、まずは文化の定義なんぞに言及しようと思う、ここは少々アカデミックにアプローチして行こう。
確か古いテレビCMで「文化は遊びから生まれた」、こんなフレーズを聞いた事がある。
中々気の利いたフレーズであるが、その出所はたぶんオランダの歴史家ヨハン・ホイジンガの著である、『ホモ・ルーデンス』から来ていると思われる。
『ホモ・ルーデンス』、「遊ぶ人」を表すラテン語で、何でも「遊ぶ存在が人間である」事をうたった、文化史の書物だそうだ。
次に、文化を思想学的に見てみよう。
その昔少しかじった事のある人類経済学、故栗本慎一郎の「パンさる」や「幻想としての経済」であるが、ここに登場する「過剰と蕩尽」や「ハレ(非日常)とケ(日常)」が文化に深く関わってくる。
生物的な観点から見ると、人間とは非常に過剰な存在との事だ。
生産にしろ消費にしろ、ただ「生きて行く」「生活して行く」だけに留まらず、不必要なぐらい「過剰な生産と消費」を我々は行っている。
文化とはこの過剰な部分、ハレとケで分類すれば、ハレ(非日常)な部分で営まれている。
と小難しい事をのたまわったが、人類経済学について理解している訳でもないので、ボロがでる前に止めておこう。


話は本題に戻るが、パイプ喫煙と言う行為。
確かに専用の器具「パイプ」に、専用のアクセサリー「コンパニオン」などを準備し、パイプタバコを「長い時間と喫煙技術」を労して、ただ煙に変える行為である。
しかもこのパイプやコンパニオン、パイプ喫煙する以外には無用の長物であり、別の用途では何の役にも立たない。
もっとも「危ない葉っぱ」を吸う時にも使えるかもしれないが・・・
冗談はさて置き、まさにパイプ喫煙とは、人類経済学で言うところの「過剰と蕩尽」の最たるものとしか表現のしようは無い。
しかし、それだからこそパイプ喫煙は文化の底が深いとも言える。
パイプ本の著書で有名な作家故梅田春夫氏は、文化の深さを別の表現で、次の様に説明している。
「パイプ喫煙は、男に残された最後の楽しみ」
実に言い得て妙である、この辺りの哲学的なお話は触れる機会があれば追々書く事として。
実はパイプ喫煙、その文化度の高さが故の「もう一つの問題」が存在する。
その問題が、「パイプ喫煙が長続きしない」「中途で挫折する」人が多い事である。
それ故に、パイプ関連の書籍にはハウ・ツーの記事が定番となっている。
また、ロンドンで「パイプ喫煙の技術」を刊行したヨアキン・ヴェルダゲルなどの様に、「パイプは出来る限り一級品の物を買うべき」と提唱する事にもなる。
これはある意味、「最初にハードルを上げておけば、パイプ喫煙も長く続くだろう」との、逆説的発想に基づくハウ・ツーだと思う。
そこで、このルイ・ロペスのパイプ物語2でも、パイプ喫煙に挫折しないコツを、逆説的に提案しよう。
その提案が次である。

「パイプ喫煙を長続きさせ、その技術を高める為には、まずは人生の友と成り得る、文化や趣味を見つけよう。」


「はじめに」で宣伝の書き込みをしたが、この度アマゾンキンドルで電子書籍を出版したが、この17万文字強を執筆する時、如何にパイプ喫煙が執筆の助けになったかだ。
本を読んだり原稿を書いたり、特に一番大変だった校閲作業に、パイプ喫煙がどれほど役にたったか。
仕事からの帰路で、「今日はどのパイプに、どんなタバコを詰めて校閲作業をしようか」などと、ワクワクした日は数え切れない。
そう、パイプ喫煙が極めて文化度の高い嗜好品であるが故に、パイプ喫煙は人が営む文化的生活と相性が非常に良いと考える。
音楽や映画鑑賞するも良し、読書をするのにも良し。
また、執筆に勤しんだり、思想探求の旅にでる時のお供として、パイプ喫煙はこの上ない嗜好品となってくれる。
このように思考を進めて行くと、パイプ喫煙に必要なものが見えてくる。

「パイプ喫煙が上手くなり長続きするコツとは、如何に文化的な時間・生活を営めるかに掛かっている」


人が人たる所以である文化。
人類経済学の「過剰と蕩尽」や、ヨハン・ホイジンガの「遊ぶ存在が人間である」を今一度考え、自ら積極的に文化(しょうもない遊び)を楽しむ事が、パイプ喫煙を楽しむ妙諦だとの主張で、「パイプ喫煙と文化」の答えとしたいと思います。


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