29.パイプ入門(タバコ編1)

注)以下は、多分にルイ・ロペスの独自解釈が入っていますので、あらかじめご了承願います。

 

現在の日本で購入できるパイプ煙草、この全体像を把握するのに、ルイ・ロペスがお勧めするのが「パイプ煙草の近代史」だ。

 

なお、近代におけるパイプ煙草の変遷を説明するには、日本独自のカテゴライズである、「イギリス・タイプ、アメリカ・タイプ、ヨーロッパ・タイプ」が分かりやすい。

 

と言う事で、独断と偏見満載で解説して行こう。

 

 

【 ルイ・ロペスのパイプ煙草近代史 】

 

(イギリス・タイプ)※パイプ煙草の原点

 

16世紀の第八芸術から始まったパイプ喫煙、戦前まではイギリス製のパイプ煙草が世界を支配していた。

 

なお、パイプ喫煙の中心だったイギリスは、長い間(1987年まで)煙草への香料使用を認めていなかった為、煙草葉の加工や熟成、ミクスチャーの技術に力を注いできた。

 

そこで花開いたのが、パイプ煙草のベースであり、最も奥の深い原料煙草である、ヴァージニアの加工とブレンドの技術だ。

 

ヴァージニア葉は世界各地で作られており、糖度の高いもの、旨みの強いもの、ヘイタイプと言われる干し草様の甘みを持つもの等がある。

 

さらにこれをスチーミング(蒸す)、ローリング(煎る)、プレッシング(圧搾)、ベーキング(熱する)などの行程により発酵熟成させ、その熟成度合いや行程により、ブライト、ゴールデン、レッド、ブラウン、ブラック等、様々な種類の原料煙草になって行く。

 

このヴァージニアを、様々なブレンドや加工で美味しく仕上げたのがヴァージニア・ブレンドだ。

 

なお、ヴァージニアを土台とし、別の原料葉を混ぜる事により、「香料を使う事なく色々な表情を持つ煙草」が作られて行くのだが、これをミクスチャーと呼ぶ。

 

ここから、イギリス・タイプのもう一つの柱、「ラタキア・ブレンド」が誕生する。

 

この「ヴァージニアブレンドとミクスチャー」と言う、二種類の製造方法が、近代パイプ煙草の大きな潮流を作って行く。

 

ただし、香料使用禁止の条件下で発展してきたイギリスのパイプ煙草、「こだわった原料と技術」が故に、喫煙のハードルも煙草の価格も共に高い。

 

そこで、親しみやすく手頃な煙草として登場するのが、アメリカ・タイプとヨーロッパ・タイプである。

 

(アメリカ・タイプ)

 

イギリス煙草に対抗するかの様に、独自の製法で作られたのがアメリカ・タイプ。

 

パイプ煙草のアメリカ・タイプは、第二次世界大戦前後、アメリカの隆盛と共に世界に広がり、イギリス・タイプを凌駕して行く。

 

この勢力図の背景には、シガレット(紙巻き煙草)の登場による喫煙スタイルの変化と、大量生産を実現した産業革命。

 

そんな「文化よりも経済を優先する時代」と、大量に収穫されるバーレー葉の消費を望んだ、アメリカの思惑との一致がある。

 

イギリス・タイプがヴァージニア葉を中心にブレンドされているのに対し、アメリカ・タイプはバーレー葉をベースに展開している。

 

ヴァージニア葉は糖度が高く、煙は滑らかで味わいも濃厚だが、いかんせん煙量に関しては少な目だ。

 

それに比べ、バーレー葉は糖度が低く、煙も粗く味わいも単調だが、反面煙量は多く、吸い込んだ時(肺喫煙)にバーレーキックと呼ばれる刺激があり、シガレット(紙巻き煙草)の原料に最適だ。

 

戦後の忙しい時代において、少量でも十分な吸いごたえをもたらしてくれるシガレット(紙巻き煙草)により、喫煙習慣が一気に広まった。

 

なお、バーレー葉は至って素直な煙草で、香料との相性が非常に良かった為、様々な香料が使用され事となり、「アロマティック・ブレンド」と言う新たなカテゴリーのパイプ煙草が歴史の舞台に躍り出る。

 

またアメリカ・タイプの煙草は、イギリスに対抗する様に、「ヴァージニア・ブレンド」に対しはストレート・バーレー(バーレー葉をベースにした煙草)を。

 

「ミクスチャー」すなわちラタキア・ブレンドに対しては、アメリカン・ミクスチャー(激甘のキャベンディッシュを大量にミックスした煙草)を作り出した。

 

なお、アメリカン・ミクスチャーに使われるキャベンディシュには共通した特徴がある。

 

それが、激甘でケミカルな香りである。

 

このアメリカン・ミクスチャー独特の「キャベンディッシュ香」だが、プロピレン・グリコールの大量使用によるものとか、ケーシング・ソースに大量のメイプルシロップをぶち込んだ為とも噂されているが、その真偽は定かでは無い。

 

 

(ヨーロッパ・タイプ)

 

時は1930年、ヨーロッパにアメリカの着香技術が渡り、ヨーロッパ・タイプの煙草の製造が始まる。

 

ただし、着香技術を導入する前のヨーロッパは、イギリへの輸出目的でパイプ煙草を生産していた為、アメリカタイプの着香技術は、イギリスタイプの製造技術と融合する形となった。

 

結果、イギリスのヴァージニアブレンドにアメリカの着香技術がプラスされ、オランダで「ダッチ」が産声を上げた。

 

フルネームは「オランダ・コンチネンタル・ナチュラル」。

 

イギリス煙草がヴァージニア葉をケーク状にプレスし熟成させるのに対し、ダッチはヴァージニア以外の煙草も加え、その上で加香処理を施してケーク状にプレスする。

※ヨーロッパ煙草は、ケークにバーレー、ケンタッキー、オリエントなどを加えて作られ、これがベース煙草となる。

 

いわゆる「イギリスのヴァージニア・ブレンドのアレンジバージョン」が、オランダで造られたダッチと言える。

 

このダッチが、ヨーロッパに広がりアイルランドやスウェーデン、デンマークにドイツなどで、独自のベース煙草を形成して行った。

 

これに対し、ヨーローッパ煙草をベースに、ブラック・キャベンディッシュ等の、甘みに特化した煙草をミックスし、その上でさらに加香したものが「ダニッシュ」となる。

 

フルネームは「ダニッシュ・スカンジナビアン」、デンマークで生まれたれたスモーキング・ミクスチャーだ。

 

これが、イギリスのラタキアブレンド、すなわちミクスチャーのヨーロッパ・バージョンとなる。

 

ここでブラック・キャベンディッシュに革命が訪れた。

 

イギリスで使われるブラック・キャベンディッシュは無着香のピュア・キャベンディッシュ。

 

味わいは、干しぶどうやプルーン系の甘い香りだ。

 

それに対しアメリカン・ミクスチャーは、ケミカルな激甘フレーバーのキャベンディッシュが特徴だ。

 

ではヨーロッパのブラック・キャベンディッシュはどうなっているのか。

 

答えは、「ヨーロッパのブラック、キャベンディッシュは、メーカー毎に異なり、その特徴はブランドのカラーになって行った」。

 

ブラック・キャベンディッシュは、十分に熟成されており、パイプ煙草に「軽さと甘さ」を与えてくれる。

 

ヨーロッパのメーカーは、このブラック・キャベンディッシュに着目し、独自のレシピ作りに重きをおいたのではと考えている。

 

その証拠に、ヨーロッパ・タイプのブラック・キャベンディッシュはメーカー毎に味わいが違う。

 

ナッティーで落ち着いた味わいの物や、ほのかなチョコレートフレーバーのもの。

 

キャラメルにバタースカッチ、ヘーゼルナッツにヨーグルトスカッチ。

 

ヨーロッパ・タイプのブラックキャベンディッシュは、どれ一つ取っても同じ物が無いと言える程多彩である。

 

この様にヨーロッパ・タイプは、イギリス・タイプとアメリカ・タイプの、良いとこ取りする形で発展して行く。

 

「メーカー独自のベース煙草とブラック・キャベンディッシュ」、そこに各種のトップフレーバリング。

 

煙草を味わいを残しながらも、「クールで軽く、多彩でありながら分かりやすい」パイプ煙草のラインアップがここから生まれる。

 

結果として、現在のパイプ煙草界で、最も勢いのあるのがこの「ダニッシュ」だ。

 

その証拠に、現在のパイプ煙草はOEMが進み、そのほとんどがデンマークとドイツの二国製造となっている。

 

 

さて、パイプ煙草の現在地をザックリ説明した所で、次は煙草葉そのものについて言及して行こう。


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