24.パイプの深淵「不確定性原理」

パイプ喫煙の解説にあたり、パイプ喫煙の難しさについて、いささかアカデミックに展開しようと思う。

 

今回取り上げるのが、理論物理学である所の量子力学だ。

 

時代は1920年代、ニールス・ボーアによって形成された「コペンハーゲン派」の、ハイゼルベルグによって「不確定性原理」が発表された。

 

かのアインシュタインが、コペンハーゲン派との論争の折、あの有名な言葉、「神様はサイコロ遊びはしない」を言わしめたあたりの理論である。

 

取り扱っている世界は、1mmの1000万分の1より小さく、原子よりもさらに小さな「ミクロの世界の物質観」。

 

有名な思考実験に「シュレーディンガーの猫」があるが、「パブロフの犬」とは全くの別物なので注意が必要だ。

 

どんな注意が必要かは置いといて、これはニュートンを始めとする古典物理学とはまるで異なる世界で、通常の感覚では理解し難いものがある。

 

「電子の位置を確定しようとすると運動量(速度)が決まらなくなり、運動量を確定しようとすると位置が決まらなくなる」

 

まあ、たんに言葉尻だけとらえているだけで、ほとんど理解できてはいないのだが、この不確定性原理がパイプ喫煙とよく似ていると感じている。

 

では早速、パイプ喫煙を理論物理学風に解説してみよう。

 

「パイプを一つに固定した場合、様々な特性を有する煙草がある為、1本のパイプで全ての煙草を評価することはできない。

 

また、煙草を一つに固定した場合、様々な特性を有するパイプがある為、1つの煙草で全てのパイプを評価する事はできない」

 

もっともこれは、煙草のテイスティングや、パイプのレビューを書く場合に必要な事であり、ただ喫煙を楽しむだけであれば、ここまでする必要はない。

 

まあ、普通に考えれば、「お気に入りのパイプに、お気に入りの煙草」を詰めて、ノンビリ楽しむのがパイプ喫煙だ・・・・・・

 

と考えがちだが、現実ときたら、そうは問屋が卸さない。

 

「お気に入りのパイプに、お気に入りの煙草」、これを見つけるまでが一苦労である。

 

その理由が「パイプ喫煙の不確定性原理」。

 

パイプに様々なタイプがある上に、煙草はそれ以上に多種多様だ。

 

しかも、パイプ喫煙を楽しむ為には、喫煙技術が大きく物を言う。

 

この喫煙技術であるが、紙巻きや葉巻などの喫煙では、あり得ないファクターであり、パイプ喫煙唯一の要素となる。

 

しかも不幸な事に、三桁を越える種類を誇るパイプと煙草を組み合わせて楽しむ事が前提となるパイプ喫煙、この「喫煙の不確定原理」が障害となり、喫煙技術の何たるかを把握する事すら困難である。

 

その上、日本ではパイプを趣味にしている人が極わずかである事が災いし、私がパイプ喫煙を始めた頃の実体験、暗中模索、五里霧中を味わう羽目になる。

 

そんなパイプ喫煙の特殊性によって生まれたのが、「孤高で気むずかしいスモーカー」と言う、パイプ喫煙者のイメージだ。

 

これについて物の本には、逆説的ではあるが次ような事が記されている。

 

「パイプは哲学者から叡智を引き出し、愚者の口をふさぐ」

 

「英国語クィーン・イングリッシュを正しく発音するには、パイプをくわえ歯の間で言うべきセンテンスを呟き、最後に isn't it? と言えば、相手に意味は伝わらないが、良い印象を与えられるだろう」

 

まあ逸話の真偽はともかく、パイプ喫煙が難易度が高い嗜好品である事は間違いない。

 

しかし、文化的生活を送るために、極めて優れた趣味であるパイプ喫煙、これを身につける事で、人生に新たな世界が開ける事も保証できる。

 

ついては現在、パイプ喫煙の壁を越える為の、企画を練っている最中だ。

 

それでは、簡易的なパイプ入門を交えて、その秘策を紹介し、「第四章 形から始まる文豪気分」は終わりといたしましょう。


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