第 二部 「パイプを楽しみたい人へ」

2001年10月5日号

7-1 第二部記念特大号 スモーキング・イン・北海道  

最終の「北斗星」が上野駅を出発したのは、夜の7時を少し回った頃だった。
私はB寝台の寝具を確認し、ベッドに腰を落ち着かせてから、久しぶりの貧乏旅行に思いをはせていた。
今回の行く先は洞爺湖、温泉もそこそこにして、夕闇せまる湖畔に、紫煙をたゆたわせながら歩く姿を思い浮かべる。

やはり、寒い季節はパイプに限る、火を点けてくゆらせているだけで、かじかんだ手を癒してくれるし、ポケットに入れれば、しばらくはカイロの代わりもしてくれる。
暦は3月半ば 、冬未だ盛りの北海道には、パイプに勝るものは無いだろう。
そして簡単な食事をすませた後、缶コーヒーをすすりながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
ここ二日、三日の冷え込みのせいなのだろう、郡山を越えたあたりで、外は雪になっていた。
さあ、今日はこれぐらいにして、明日目が覚める頃には、もう北海道に入っている事だろう。
ゴロリとベットに横になり、枕元の電気を消した、そして程無く、まどろみは洞爺湖に飛んでいた。
車中の人となって16時間、ようやく札幌に着いたのがお昼前、車体にびっしり雪をこびり付けた「北斗星」が、冬の北海道を物語っている。

さて何処へ行こうかと思案したが、とにかく時間が時間である、とりあえず駅の食堂に入り「ホッケ定食」を注文した、何処までも貧乏旅行である。
しかし出て来たホッケは、東京くんだりで食べる物より、ふたまわりはでかい、脂も乗っているし、何より安い、満足である。どれ腹も収まった事だし、外に出て一服でもしようかと、鞄の中をかき回して一瞬青くなった。
「シマッタ!!タバコを入れ忘れた。」
何と、パイプもコンパニオンも、モールまでも確認して来たのに、肝心のタバコを置いて来てしまったのである。
しかしパイプスモーカーにとって、旅行にタバコを忘れると言うのは、一大事である。
何故なら、パイプの吸えない旅行なんて、楽しみの半分が台無しになってしまったのと、同じなのだからである。
取るものもとりあえず、食堂を飛び出して、駅前のデパートへと向かった、何とかタバコを調達しなければ。
そして、方々探して見つけたタバココーナーに、パイプタバコの姿を確認して、ホッと胸をなで下ろした、「まあ急ぐ旅でもなし。のんびり吸えるタバコでも探すか。」
選んだのはメローブリーズのレギュラー、シットリとした赤ワインの香のする、落ち着いた味わいのスウェーデンのタバコである。
すると、先程までの悲壮感は何処へやら、買ったばかりのタバコを取り出しては、封を切ってもいないのに、臭いをかいでみたり、タバコをひっくり返して説明を読んでみたり、まるで新しい玩具を買って貰った子供の様である。
これも一重に、パイプスモーカーの業と言うものだろう。


翌朝早くに札幌駅前を出発した観光バスは、登別を経由して目的地である洞爺湖に着いた、時間は3時を回ったところだ。
チェクインをすませ、部屋に案内される、部屋は712号室、洞爺湖に面していて絶好の眺望である。
旅装も解かずに、しばし雄大なパノラマを楽しみ、そして覗き込む様にして、湖畔を見下ろした。
いやー、これはまたスモーキングに、おあつらえ向きの散策道があるではないか。
しかもシーズンオフなので観光客もほとんどいない、これなら他人の目を気にする必要もない、パイプ吸いたい放題である。
さっそくセカンドバックにパイプ一式を詰め込んで、一人ニヤニヤしながら部屋を出る。

洞爺湖温泉街はそれほど大きくはないが、主幹道路に沿って、お土産屋、飲食店、ホテル等が林立し、その間々から湖畔にくだる道が延びている、中々風情のある街並である。
ホテルを出て、湖畔に降りる道を横目で見やりながらしばらく行くと、反対の山側に火山博物館が見える、ここは明日に取っておいて先を急ぐ。
そこからさらに一息歩くと温泉街の外れ近くで、銘菓「わかさ芋」本店の看板が目に入って来た、1階の土産物売場の横には喫茶店もあるし、そろそろ頃合いである。
店に入り窓側の席に座り、コーヒーを注文する。
そして何気ない顔をして店内のチェック、天井は高いし店内は広い、幸い喫茶店の客は私一人。
コーヒーを持って来たウェートレスが戻るのを見計い、セカンドバックからパイプを取り出す、冬のアウトドアスモーキングなので、手の平に納まりの良い、少し大きめのズルタイプである。
そしてコヒーをチビリチビリと飲みながら、タバコの匂いをかぎ、用心深く3段詰めに入る。
大きめのパイプは、チャンバー(火皿)が長いので、長くゆったりと喫煙を楽しめる半面、上から下までキチンと詰めるには、それなりに気を付けなくてはいけない。

タバコを詰め終わり、火を万遍なく点ける、そして膨らんで来たタバコをタンパで平にして準備完了。
パイプをオーバーのポケットに仕舞い、残りのコーヒーをあおって、何食わぬ顔でレジに向かう。
会計を済ませて、店を出た所で立ち止まると、店内に背を向けたままでパイプに再度火を点けた。
そしてパイプの火を安定させる為、注意深くふかしながら、店の裏手に回り込むようにして湖畔へ抜ける。
いよいよ待ちに待った、スモーキング北海道の開始である。
所々に残っている雪を踏みしめながら、風に向かいゆっくり歩く、空気も旨いしタバコも美味しい、やっぱり旅行にはパイプは欠かせない 。

しかし風が強い日のスモーキングも、中々おつなものである。
パイプに火を点けるのこそ大変ではあるが、一度チャンと点いてしまえば、後は楽だからである。
それは、風が火種を保ち続けてくれるからであり、少しくらい雑に吸っても平気である。
プカリ、プカリとタバコを味わいながら、ゆっくりと温泉街の方に向かって歩を進める。
少し先にシーズンオフで停泊中の遊覧船が見える、2階建てだろうか、3階建てなのだろうか、かなり大きい、そして遊覧船乗り場の門の脇には、洞爺湖の看板が建っていて、絶好のポジションである。
看板の前に立ち止まって、ゆっくりと煙を吐き出す。

洞爺湖の景色を満喫しながらのスモーキング、堪えられない一時である、何も言う事はない。
そうやって、しばらくパイプをくゆらせていたが、冬の日は思ったより短い。
空から包み込む様に降りて来る、夕闇に急かされながら、タンパでタバコを押え、煙の色が濃くなったのを確認して、湖畔の道を再び歩き始めた。
心行くまで楽しんだスモーキングも終わりに近付き、今晩の宿の前に戻って来たのは、日もすっかり沈んで、1階のレストランの灯が照らし出している、散策道の芝生が妙に寂しく見える時刻であった。
こうして、楽しい一時を過ごす事のできたスモーキング北海道ではあったが、まだこの時には、洞爺湖温泉街が、有珠山の噴火により大きなダメージを請う事など知るよしもなかった。
そして、ついこの間、噴火のダメージから復興した、洞爺湖温泉街のニュースを目にしたのだが、また行く機会が出来た時には、是非遊覧船の上から海に向かい、紫煙を流してみたいと思う、今日この頃である。

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