初体験のH.Suzukiのパイプ、相模湖在住で期待の作家さんなので、試し喫煙が楽しみである。
マウスピースはテーパープッシュで長短の二本付き、置けるタイプのチャーチワーデン・サンドブラスト仕上げ、なかなかマニアチックな一品だ。
チャーチワーデンはスタンウェルに次いで二本目、レビューにも力が入ると言うものだ。
チャンバーは深度が32mmとやや深めで、直径が19.5mmとシッカリ取ってある。
形状は寸胴タイプで底は浅いお椀型、底が細くなりがちなチャーチワーデンに比べ後半のタンピングのしやすさが伺える、スモーカー思いのパイプである。
なお特筆すべき所は煙道(ドラフトホール)だ。
この独特な少し左に振れたフォルム、アリさんマークで人気だった有田静夫さんの師事によるものかもしれない。
(*店主注 有田さんのパイプはよく研究されていますが、直接指導されたことはなかったようです。)
以上の概要から喫煙計画をたてる。
有田さんのパイプは私の少ない経験によれば、「煙量が出やすく、煙が素直に口に入って来る」印象である。
試喫用の煙草は、リトマス紙としてヴァーニアNo.1、気難しい煙草のアンフォラ・フルアロマ。
最後に、チャンバー深度と形状からラタキアとの相性の良さを勘案し、アンフォラ・イングリッシュブレンドをチョイスしてみた。
さて、期待の作家さんによる一本、どんな世界が開けるのであろうか。
【試喫を終えて】
有田静夫さんからの師事を受けていると思われ、煙立ちが良く味わいが素直に入ってくるパイプだと思う。
なお、ショート目のマウスピースと、ロングマウスピースが用意されているので、長さによる味わいの変化も楽しめる。
実を言うと、パイプ煙草には「パイプの向き不向き」がある。
お気に入りのパイプで吸ってみて、「これはチョッと微妙だな」と思う煙草に出会った時、このパイプの「ショートとロング」で吸い比べてみてほしい。
新しい味わいの世界が開けるかもしれない。
一つの煙草を二つのアプローチで試してみる事ができるこのパイプ、パイプ界に新たな潮流を生み出すキャパがあると感じる。
パイプ煙草の相性を確かめる為に、是非用意しておきたいパイプである。
【テイスティング】
(ヴァージニアNo.1)
1.マウスピース・ショート
筆卸でヴァージニア煙草、少しゆるめに詰めたが3g越え、とりあえず一服。
手で持っての喫煙前提と言う事で薄めのマウスピース、フィット感は上々だ。
肝心の煙はと
なるほど最初の読み通り、煙量はシッカリと出ているし味わいもバランスが良い。
香りはヘイタイプに熟成香が混じり複雑で濃い。
では香り偏重かと言えばそうでも無く、酸味に偏り気味ではあるが煙草の旨味もしっかり来ている。
ヴァージニアNo.1のキャパシティーを良く引き出しているそんな滑り出しである。
喫煙中盤に掛けては甘みが徐々に増えて来るので、香りと酸味に甘みも加わり中々濃くて旨い煙草を楽しめている。
この煙草の旨味が直接口に入ってくる感じ、やはり有田静夫さんの技術を継承していると感じる。
なおサイトにはチャーチワーデン風となってはいるが、ボウル中程に厚みをシッカリ取ってあるシルエットで、チャーチワーデンより手が熱くならないのは好印象だ。
さて煙草感が強くなる後半、香りは後ろに下がったがその分煙に重さが出て来ている。
甘みと酸味も一体化し、ボディー感のある味わいになってきている、実にトロリとした充実の煙だ。
2.マウスピース・ロング
このパイプを買った理由の一つ長いマウスピース、ショートとロングでどんな違いがでるのか、ここは見所である。
実は興味本位でスタンウェルのチャーチワーデンも持ってはいるが、20cm越えのマウスピース、普段使いには邪魔になる上、掃除も専用のモールが必要になる事から、正直なところタンスの肥やしにしかなっていない。
そんな訳で、長いマウスピースのレビューは今回が初めて、楽しみ楽しみと。
第一印象は「火を乗せる様が見やすい」。
長めで角度の浅いオームボールのようなフォルムのせいか、チャンバーを上からみての着火になる。
短いマウスピースの時は、横からマッチの火が吸い込まれるのを見ながらとなるが、こちらはマッチの火で変色して行く煙草を確認しながらの着火だ。
ただし、マウスピースが長い為やや大きめに吸い込む必要はある。
吹き戻しの際も短いパイプに比べ、半テンポずれる感覚がある。
肝心の味わいだが、気のせいレベルではあるが甘みが若干強めにでているかと思う。
ただし味わい全体はややライトな気もしないでもなく・・・・・・
たぶん、相対として甘みを感じやすくなったのではなかろうか。
まぁ、細けぇこたぁ良いとして、手にボウルを持って腕を組んだとき、マウスピースが丁度口元に来る辺りは、なんともシャレオツで良いもんだ。
てな訳で、短いマウスピースに比べ気持ちライトな味わいに、貴婦人がパイプを嗜むようなシルエット。
木で鼻をくくるような態度で、ファッショナブルに決めてみてぇもんだ。
口調を元に戻そう。
喫煙中盤、短いマウスピースの時に比べ煙りがライトである気がする。
その分、香りが華やかな印象だ。
後半に入る頃になると煙に重量感も出始める。
やはり「長いパイプほど味わいの引き算が強めに出る」、構造通りの結果なのだろう。
総評としては、アリさんマークのパイプ同様、片燃えし難く煙量が出やすい。
それに加え終盤のタンピングにも優しいと来ているので、とても吸いやすく扱い安い印象だ。
また、テーパープッシュでありパオローズの長い継ぎが良い仕事していて、短いマウスピースでは入り口にジュースの弁が出きる事はあっても、逆流がボウルに至るまでは行かなかった。
長いマウスピースに関しては、ボウルに至るジュースが若干認められたがしかし、どちらも最後まで喫煙できた事は僥倖である。
(アンフォラ・フルアロマ)
1.マウスピース・ショート
今回のテイスティングは、パイプ煙草界きっての気難し屋。
H.suzukiのパイプがこれをどの様に料理するか。
逆から見れば、アンフォラ フルアロマが、パイプの正体をどれだけ暴けるのか興味は尽きない。
煙草を詰めて改めて思うのは、このパイプに対し刻みがやや細目に感じる事だ。
また、アンフォラ フルアロマは目立った着香が無く、ヴァージニアの熟成香が立つ訳でもない、実に捕らえ所の無いティンノートだ。
早速一服と。
立ち上がりはティンノートとは裏腹に、チェリーブロッサムが素直に出てくる。
ヴァージニアのさっぱりした甘さもあり、気軽に楽しめる煙草になっている。
やや深めのチャンバー故か、オリエントがチェリーの陰に隠れている。
ただし序盤をすぎると顔を出し始めるようで、全体的に厚みがあり落ち着いた味わいになって来る。
気難しい煙草であるアンフォラ フルアロマ、素直でピュアに楽しめている。
ただしチャーチワーデンに比べると味わい偏重で、煙草それぞれの味わいが感じられる。
喫煙も中盤になると、チェリーブロッサムは後ろに下がり、オリエントとヴァージニアがコラボした感じになるが、バーレーの粗めの煙の為か決して重くはなっていない。
あえて表現すれば、ベテランスモーカーが気軽に煙草そのものを楽しむ、そんな雰囲気になっている。
そんなこんなで喫煙も後半だ。
煙草感が強くなり始めると共に酸味が強くなる。
そこはローデシアンばりの、浅いお椀型のチャンバー底部、味わいをじっくり楽しむパイプなのだろう。
2.マウスピース・ロング
以前チャーチワーデンでこれを吸った時、香り先行の良い印象だったので、今回のメインはロングマウスピースである。
従って詰め型は固めで多めであり、使用した煙草はショートの時の3割り増し。
ボウルトップにギリギリまで詰めてあるので、ベポライズ効果も期待できそうだ。
早速火をいれてと・・・・・・
おおっ、思った通りだ。
チェリーブロッサムを感じるコクのある甘み、アンフォラ フルアロマはこうでなきゃ。
短いマウスピースに比べ、それなりに香り偏重になっているせいか、オリエントが隠し味にまわっている雰囲気だ。
ヴァージニアNo.1に関しては、ショートの好感度が高かったが、アンフォラでは圧倒的にロングの方が好みである。
この煙草、生まれがオランダであるせいか、シュッとしてお洒落なパイプが似合うのかもしれない。
しかし、味わいを楽しむ時にはショートを使い、香りが特徴の煙草にはロングで対応する、中々に二度おいしいパイプである。
しかも、私が所有しているチャーチワーデン、マウスピースが21cmもあり掃除がし難いのに対しこれは12cm、レギュラーサイズのモールで掃除可能なところは有り難い。
喫煙序盤をすぎる。
香りにオリエントが出て来てはいるが、チェリーブロッサムの甘い香りもシッカリ主張している、この煙草が狙った味わいを、かなり忠実に再現できているのではないだろうか。
中盤になる頃には、バーレーの荒さとコクも出て来るので、煙草感は増してくる。
しかし、チェリーブロッサム風味のオリエント感のある甘さは健在で、美味しいダッチ煙草とはこう言うものだと改めて実感できる。
ヴァージニア・オリエント・バーレーのダッチ三重奏、後半に入っても維持されており、実に満足な一時を送る事ができた。
次ははアンフォラ リッチアロマを、ロングマウスピースで試してみたくなった、そんな試喫である。
(アンフォラ・イングリッシュブレンド)
1.マウスピース・ショート
さて期待のラタキア物、今回はショート・マウスピースである為味わい重視で、気持ち緩めで少な目だ。
選んだのは往年の名品「バルカンソブラニー」の復刻版だと思っている、アンフォラのイングリッシュブレンド、何処まで楽しめるのかこの後すぐ・・・・・・
火付けで早速分厚いラタキアが来る。
たぶんオリエントが良い仕事をしてくれているのだろう、尖った感じの繊細なラタキアではなく、暖かみのある落ち着いた香だ。
程良い酸味が効いたヴァージニアの甘みを、ナッティー&スモーキーな香りが、旨い煙草に仕上げてくれている。
また寸胴型で煙立ちの良いチャンバーの為か、味わいよりの喫味をメインにしながらも、薫製臭のある煙が豊に漂っている、何か一人キャンプにでも来ている雰囲気だ。
中盤になっても薫製の煙は健在で、酸味を増したヴァージニアと絡んで、BBQでベーコンを焼いている・・・・・・とは言い過ぎだが、それに近い物が楽しめる。
中盤を過ぎると、さらにヴァージニアの熟成香が増すようで、煙草の酸味にオリエントに支えられた厚めの薫製臭が、ラタキアブレンドを吸っていると言うより、薫製ヴァージニアを味わっていると表現する方が適している世界を醸し出している。
私的な見解ではあるが、バルカンブレンドのコンセプトは「ヴァージニアを美味しく味わう」所にあると考えているが、まさにそのねらい通りの楽しみ方ができている。
もっとも、「純粋にラタキアを楽しみたい」と言う人には合わないかもしれないが、薫製ベーコン&ウィンナー好きには打ってつけだと思われる。
さて次はロング・マウスピースを試してみるが、味わいが何処までラタキアに振れるのか楽しみなところではある。
2.マウスピース・ロング
今回はラタキア物のロングバージョン、香り重視を考えて気持ち多めに詰めてみた。
さてと、おやっ出だしの煙が軽い。
長いマウスピースが煙草を軽くしているのか、序盤ではナッティーさもそれほど出ず、軽快なラタキア煙草を楽しめる。
シュッとしたフォルムのチャーチワーデンよろしく、ファッショナブルなラタキア煙草と言った雰囲気だ。
序盤から中盤に掛け、煙に重さが増えるのに比例しオリエントも顔を出して来はるが、ヴァージニアのネットリ感はまだ弱いか。
煙に粉っぽさも時折感じるし、煙草の味わいはそれなりにラタキア側に振れている。
マウスピースにより長さが大きく変わるだけで、結構味わいに違いがでるもんだ。
もしかするとパイプが長くなった分、大きく空気を動かす必要が出るため、くゆらすのが大ざっぱなっているのが原因かもしれないが。
喫煙後半に入ってもラタキアの香りは健在であるが、味わいはやや単調でショートで感じた薫製ヴァージニアは控えめだ。
その代わり、サッパリとした煙草の甘みと高めのトーンのラタキアがコラボしているので、ラタキア好きには王道の味わいかもしれない。
まあ個人的には、小腹がすいた時にはショートで行きたいと思っているが。
しかし、マウスピースで味わいの表情が結構変わるものだと改めて学んだ、良い経験である。 |