パイプとの出会い

2001年6月01日号


私が喫煙を始めたのは国に定められた通り20才からである。
ただ他の人とは違ったところがあった、それは「俺はタバコは吸わない」と堅く心に誓っていたことである。
その理由は、タバコ(紙巻き)を吸うのは、何処か世間に対して突っ張っている若者と言うイメージがあった事と、紙巻きタバコの喫煙が、ニコチンに依存しているように見える部分に抵抗感があったからである。
そこで私は20才を記念して「俺はパイプしか吸わないぞ」と決心したのである。
タバコを吸わないのにパイプとは何だか変な話だが、紙巻きタバコに比べ、こだわりの深そうなパイプ喫煙の方が、惰性とかカッコ付けでタバコを吸うのではなく、正面切って喫煙に取り組んでいると言った、いさぎ良さを感じたからである。
それと、読書好きだった私は、パイプをゆっくり、くゆらせながら 本を読む姿に、あこがれを抱いていた事もある。
ところが、その他に、パイプ喫煙を始める事に、大きな影響を与えた理由がもう一つある、それが私の父親であった。

50年近く前になるだろうか、終戦の復興華やかざりし頃、当時の繁華街にはダンスホールが何軒もあったと聞いている、そしてその頃、独身だった父は音楽で飯を食っていた。
「小畑 実」が全盛で、「美空ひばり」がデビューしたての頃、その後ろでバイオリンを弾きながら、全国のダンスホールを転々としていた話を、今でも時々聞かせられる。

そして父は、その頃流行っていたパイプを、音楽仲間から譲ってもらい、楽譜片手にパイプをくゆらせる様になったのである。
しかし結婚と同時に地方に住むようになった父は、音楽だけでは飯が食えなくなり、音楽に関わる仕事ではあるが、転職を余儀なくされたのである。
そして、それと共に父はパイプから遠ざかるようになり、パイプは次第に、引出しの隅に転がされたままとなって行ったのである。それでも、私の小さな頃は、時折譜面に万年筆を走らせながら、パイプ吸っていたらしく、記憶の中にノスタルジックな香と共に、父のパイプをくわえた姿が残っている。

その頃、父が吸っていたのが、アメリカタイプのパイプタバコで、昔から多くのスモーカーに親しまれている、ハーフ・アンド・ハーフだった。
そして、ぼやけた断片的な記憶の中のそれは、飾り気のない落ち着いた色調の缶に入っていて、お菓子等の甘さとは違い、遠い異国を忍ばせるタバコの香で満ちていた。
だから楽譜を前にした父の周りには、タバコの煙と共にまとわり着く、物心が着いたばかりの、幼い日の私がいたのである。
これが私のパイプとの最初の出会いであった。

それから10数年の年月が流れ、20才になったある日、引出しの隅からパイプを探し出して来て、私は父にこう言った「これ貰えるかな。」
父は「ホゥ、パイプか、なつかしいな。」と目を細めて、しばらくパイプに見入っていたが、「もう使わないから持ってっていいよ、だけどいいパイプだと聞いているから、大事にしてくれよ。」と言った。
そして、入れ物はパウチになってしまっていたが、父が昔吸っていたタバコと同じ、ハーフ・アンド・ハーフを、父から貰ったパイプに詰めて吸ったのが、私の喫煙ライフのスタートとなったのである。

父から貰ったパイプがこれである。
長年の使用によるタバコのヤニの浸み出しなのであろうが、かなり黒ずんでいる。
そのせいで写真ではハッキリとは確認出来ないと思うが、パイプの木目はバードアイズと呼ばれている鳥の目様の模様がきれいにでている。
パイプの側面には横に走る柾目が、そしてシャンク側と、その反対側にバードアイズがあり、マウスピースはサドルが使われている、そしてヤニ止めの形に至っては、今ではあまりお目に掛かれない代物である。
もしかしたら、ハンドメイドのクロスグレーンではないかと、秘かに思っているのは、私だけであるが、とにかく安物パイプしか持っていない私のコレクションの中では、たぶんこれが一番高価な逸品であろう。
そして、まだ現役でがんばっているこのパイプ、実は私より年上なのである。
たぶん作られたのは50年程前になると思うが、しかしずいぶん長持ちのパイプである。
もっとも、50年間毎日吸っていた訳ではないのだが、今でもボールやシャンクは全然大丈夫である。
しかし、さすがにマウスピースのビットの部分は、ガッチリ歯形がついていて、荒っぽくくわえると、噛み砕きそうな状態なのだが、パイプと言うものは、丁寧に扱えば、何年でも使えると言う良い見本であろう。
だから、皆さんもパイプを扱う時は、タボを折ったり、くわえる所を噛み砕いたりしないよう、気を付けて長く使ってほしい。
そうすればきっと、パイプに沢山の思い出を詰めて、くゆらせる様になるだろう。



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