27-1 スモークイン東京 Part2

2003年12月18日号


 パイプワールドの初日のレクチャーは、1.「日本は世界3番目のパイプあ喫煙国〜喫煙とパイプ(キセル)の伝来〜」
2.「パイプたばこ−−ブレンドの実際−−」の二部構成となっていますが、紙面の関係上、以後は第一部、第二部と簡易表記させていただきます。
また、スモークイン東京 Part2・3を書くにあたりまして、情報と資料のご提供をいただきました鈴木、堀之内の両氏には、略儀ではありますが、ここで改めて謝意を申し上げます。

 富貴の間は、結構大きめの会議室と言った規模で、長机をロの字型に並べ要所々々に灰皿を設置、部屋の奥にスクリーン、入り口付近に水とコップの用意されたテーブルと言った配置である。
そして司会者の第一声が「皆さん、くれぐれも禁煙なさらない様お願い致します。」だった。
思い思いのパイプを咥えた参加者から、ドッと笑いが起きる。
レクチャーの簡単な説明が済んだ後、部屋の明かりがやや落とされ、スクリーンに資料が映し出される。
操作しているのは講師のPCJ理事長 鈴木達也氏、ノートパソコンの画面をプロジェクターで映し出す形を取っていた。
鈴木氏も結構なお歳になるのだが、ノートパソコンをバリバリ使いこなしておられた、壮健なものである。

レクチャーの内容は、ウインザーおよびシカゴで行なったパイプ(キセル)伝来史を簡単にまとめた物であるとの事であったが、現状のキセル伝来の定説と、真っ向から相対するものになっている様だ。
私はパイプ伝来史について、全く勉強していないのでここに書くのもはばかられるのだが、そこは一つご愛嬌と言う事で目をつぶってほしい。

ところでで肝心のキセルの伝来についてであるが、現在の定説は17世紀に書かれた俗説・風説的資料を基礎として成り立っていると言うお話である。
しかし鈴木氏は、その通説に一石を投じるスタンスで研究されている。
タバコ自体の伝来については、キセル(パイプ)に比べて幾分早く、今回のレクチャーでは、天正4年(1576)の「出雲崎村御水帳」に「たはこや」の記述がある事が取り上げられていた。
そして、肝心のキセルであるが、慶長8年(1603)「琉球往来」のキセルの記述が紹介されたのだが、ここで問題になるのがキセル伝来の通説である。
しかしその前に、欧州におけるパイプの伝播に触れておかねばならない。
タバコそのものに関しては、コロンブスによって目撃されたもののヨーロッパにへ持ち込まれたのは半世紀以上も経てからである。
そして肝心のパイプによる喫煙であるが、 16世紀の半ばを過ぎてから喫煙スタイルの主流にこれを選んだ国は、イギリスぐらいである。ついで、対岸のオランダへ広まったのである。この頃、ポルトガルやスペインでは、喫煙の普及はまだなく新大陸からの航海帰りの船員たちが巻いたタバコを喫ってみせていた程度である。
パイプ喫煙の先駆者
とも言えるイギリスで、タバコが一般化されたのが1 6世紀の後半、オランダが東インド会社を設立したのが1602年である、これから考えると喫煙具としてのパイプは、オランダによりアジアに持ち込まれて来た事は充分に考えられる。

この様にアジアに持ち込まれて来たパイプであるが、キセルの語源の通説が「キセル=クシエル(カンボジア語)」「羅宇(ラウ)=ラオス産の竹を使用した為」である事から、アジア方面から日本に伝わって来たものとされている。

ただし 、この頃のイギリス・オランダでの喫煙はクレイパイプが主流であり、キセルの様な金属製のパイプは一般的には使用されていなかった。又、長崎の出島跡でも、オランダ製のクレイパイプしか出土されていない。
ところが近年、オランダのアムステルダム、ロッテルダム等の港湾都市でのみ、金属製のパイプが出土した。
クレイパイプと言えば、アン王女の時代に5年間で千本ものクレイパイプを買った貴族がいたと言うぐらい、壊れ易いものである。
当時の船乗り達は、一度出航すると長期間戻る事はなかったであろうし、船上で使用するパイプに、より強い耐久性を求める事は必然で、オランダの港湾都市でのみ、金属製のパイプが出土した事も頷ける話である。
従って当時の航海には、壊れ難い金属製のパイプが珍重された事は充分に考えられるし、壊れ易いクレイパイプなら数多く持っていったであろう。
上記のオランダ港湾都市での出土と、長崎出島での出土、パイプの特性を考え合わせたとき、消耗品に近いクレイパイプは出島に数多く残され、当時貴重であったであろう金属製のパイプは、個人の愛用品として再び持ち帰られたと考えられ、その貴重品であった金属製のパイプが、日本のキセルの原型ともなったと考られないであろうか。

ここで鈴木氏は一枚の美術品の写真を紹介した。
南蛮屏風とよばれる日本の絵画で、狩野派あたりの作であろうか、宣教師や南蛮人と思わしき人物が何人も描かれている。
屏風は「観能図屏風」、能を楽しみながらくつろいでいる人たちの様子が描かれているが、その随所に喫煙風景が見られる。
使われている喫煙具は、キセルの初期の形、河骨型(こうほねがた)に似て、火皿の真中から真下に向かって煙道が伸びているパイプであるが、その煙道は火皿の下で不自然に湾曲している。
又、パイプの大きさであるが、1メートル以上はあろうかと言う長さで、火皿もお碗程もある。
更に、そんな巨大なパイプを、両手で斜め上方に突き立てる様な形で喫煙風景が描かれているが、鈴木氏曰く「とても喫煙できる様な物ではない。」との事である。
確かにこの屏風に描かれている、俗称「南蛮ギセル」であるが、未だ出土した試しは無い。
ではこの屏風に書かれている喫煙具は、何なのかの疑問に対し鈴木氏は、「キリスト教会で使われるロウソク消しが形状的に一番近く、祭壇のロウソクを消している所を見間違えたのではないか」との事である。
その真偽の程は定かではないと思うが、屏風に書かれている喫煙具と同じ物が、未だに出土していない事から考えると、少なくとも喫煙具についての描写は、パイプを良く知らない絵師達が、想像又は象徴として書いたと考えられる。


しかし、ここで肝心なのがパイプと間違えたロウソク消しが、キリスト教会のものである事だ。
まあ、紙面の関係上、歴史に深く踏みことはできないが、当時出島を中心にして、時間のずれはあるがポルトガルとオランダが、日本の文化に影響を与えていた事は確かである。
そしてオランダとポルトガルとどちらが日本の文化に大きな影響を与えたかであるが、皆さんもご存知の「フランシスコ・ザビエル」はポルトガル国王の援助を受けた宣教師(スペイン人)である、文化的影響はポルトガルの方が大きいと言え、ここでロウソク消しをパイプと見間違ったと言う説が結びつく。
さらに、鈴木氏は重大な仮説をされている、それは「キセルの語源」は「カンボジア語」ではなくて、「ポルトガル語」ではなかったかと言う説である。
キセル = キ・ソルベル(吸うもの)
ラオ  = ラボ(柄・軸)
上記が鈴木氏の仮説であるが、根拠は、当時日本がポルトガルの影響を受けていた事。
ポルトガルやスペインにおいては、19世紀にならないとパイプによる喫煙が普及しない事である。
それ故に、当時のポルトガル語にはパイプを表す名詞は存在していなかった為、名詞ではなく「吸うもの」といった言葉が選ばれたのではないかと言う事である。
そしてカンボジア語のクシエルについては、カンボジア語の喫煙にまつわる語彙と、クシエルと言う単語との間に、関連性が認められない事を理由に「独立した単語 = 外来語」だったのではないかとの見解をだされている。

更に、中国や朝鮮、東南アジアの喫煙具が河骨型に類似した特徴を持つ事、この河骨型のキセルが日本では初期にしか製造されなかった事を取り上げられて、カンボジアのクシエルの語源は「日本のキセル」であり、中国・朝鮮・東南アジアのキセルの原型は、日本の河骨型のキセルではなかったかと言う説明をされていた。
従って、世界のパイプの伝来の歴史は、イギリス、オランダ、日本の順序になり、日本のキセルが朝鮮や朱印船が通っていた東南アジアに広がったと言う事になる。
以上が今回のレクチャー「日本は世界3番目のパイプ喫煙国」の大筋であるが、今までのキセル伝来の通説に真っ向から相対するものだ、今後の展開が楽しみであると共に、日本のキセルの伝来史が大きく塗り替えられる事を期待したい。 なお、同氏の著書「喫煙伝来史の研究(思文閣出版)」が参考になる。
しかし、上記の様に結構なボリュームで第一部を紹介をした訳であるが、その内容共々、レクチャーの終了時間も大幅に遅れて、気が付くと第二部開始予定の時刻を、大幅に回ってしまっていた。
ここで会場設定の為に休憩時間が設けられたので、私は富貴の間を出てフロアの休憩所に向かったが、「第二部終了の予定は、いったい何時頃になるのだろう」などの不安に駆られながらも、次のレクチャーに向けてのパイプを選びはじめていた。


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作者注:写真は許可を得て掲載いたしました。

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